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なぜ「シロクマ」が法廷にあらわれたのか? 地球温暖化訴訟の弁護士に聞く
2015年07月06日 14時35分

裁判官が「シロクマは当事者ではないので、しまってください」と控訴人(原告)代理人の弁護士らに注意を呼びかける。そんなやりとりが繰り広げられるユニークな裁判が起こされている。しかも原告には、南太平洋に浮かぶ島・ツバルの住民とシロクマが含まれている。いったい、彼らがなぜ、日本の法廷に登場してきたのだろうか?

彼らを「地球温暖化の被害者」として原告に加えた環境団体などは、電力会社11社に対し、二酸化炭素(CO2)排出量を減らすよう求めて提訴した。弁護団のメンバーの市野綾子弁護士に、裁判にかける思いや温暖化被害の現状について聞いた。

裁判官が「シロクマは当事者ではないので、しまってください」と控訴人(原告)代理人の弁護士らに注意を呼びかける。そんなやりとりが繰り広げられるユニークな裁判が起こされている。しかも原告には、南太平洋に浮かぶ島・ツバルの住民とシロクマが含まれている。いったい、彼らがなぜ、日本の法廷に登場してきたのだろうか?

彼らを「地球温暖化の被害者」として原告に加えた環境団体などは、電力会社11社に対し、二酸化炭素(CO2)排出量を減らすよう求めて提訴した。弁護団のメンバーの市野綾子弁護士に、裁判にかける思いや温暖化被害の現状について聞いた。

●ツバルとシロクマを取り巻く厳しい状況

2011年に全国の電力会社と電源開発に対し、二酸化炭素排出を減らすよう求めた公害調停が却下されたことから、却下を取り消すよう求める訴えを、2012年に東京地裁に起こした。

しかし2014年9月、東京地裁は「二酸化炭素はそれ自体が毒物にあたらない」から地球温暖化は「公害」にあたらず、公害調停の対象ではないなどとして、請求を棄却した。2015年6月の控訴審判決でも、裁判所の判断は変わらず、請求が棄却された。原告らは最高裁に上告している。

——控訴審判決の際、法廷に持ち込んだシロクマのぬいぐるみについて、裁判官から「シロクマは当事者ではないので、しまってください」と言われていましたね。

あのときは「裁判官が気を利かせたのかな」という感じでした。私たちとしては、冷たく「ぬいぐるみはしまってください」と言われるだけだと思っていたんですよ。

——シロクマ訴訟は、2011年9月に、電力会社10社と電源開発の合計11社に対して申し入れた公害調停が却下されたことから始まりましたね。また、なぜ「ツバル」と「シロクマ」だったのでしょう?

私たちは、この裁判を「シロクマ訴訟」と呼んでいます。温暖化の悪影響を受ける象徴的な存在として、シロクマを掲げました。

ツバルは、南太平洋に浮かぶ、珊瑚礁でできた島です。私も視察に行ってきましたが、珊瑚礁の島はもともと海抜が低く、温暖化によって、海面が上昇したため、満潮になると島の中に海水が入ってきたり、地表から海水が湧き出てしまうんです。

大人のひざ下ぐらいまで水がたまったり、家の中にも海水が入りこんだり、塩害でタロイモやプラカ芋などの農作物も育たなくなっています。ツバルの人たちは、「土地が海に食べられる」と言っています。このままでは、人が住めない土地になってしまうでしょう。

シロクマも、温暖化で氷が溶けてなくなり、エサのアザラシを獲れなくなったため次々と餓死して、今や絶滅危惧種に指定されています。エサを求めて、母グマは子グマを連れてすごく長い距離を海を渡って泳ぐため、子グマが途中で力つきて溺れ死んでしまうこともあるといいます。

ツバルの住人もシロクマも、本当ならたどらなくてもいい運命をたどっている。住んでいる土地が削られたり、絶滅危惧種としていなくなってしまうかもしれない運命に無理矢理立たされたのは、人間の責任だと思います。

●私たちはみな「宇宙船地球号にのっている」

——調停却下の取り消しを求めて、裁判に踏み切りましたが、地裁・高裁ともに「二酸化炭素の排出は公害でない」と棄却されています。

温暖化の被害が、危機的なものとして日本人の中にまだ浸透していないことが、裁判の結果にも現れているのではないかと思います。もし日本がツバルのように水びたしになって、土地が削られているという状況であれば、世論が大騒ぎになって、裁判所の判断も変わっていたと思います。

原発は、福島第一原発事故があるまでは、差し止め請求をしても裁判で負けることが多かった。でも事故が起こって「これは大変だ」と認識が変わって、原発反対の世論の高まりとともに、裁判でも請求が認められたりしています。

温暖化も同じで、日本でもいざ病気が蔓延したり、食糧不足に陥ったり、自然災害が止まらない状態になって、「どうしよう・・・」となったときに、危機感が高まり、電力会社の対策も政府の対策も甘すぎたことがクローズアップされるのではないでしょうか。でも、それでは手遅れでしょう。進行した温暖化を止めることはできませんから。

——この裁判を通じて伝えたいことを教えてください。

私は、生き物はみな、「宇宙船地球号にのっている」と思っています。人間のせいで、シロクマは絶滅に追いやられている。急激に温暖化が進んだのは、18世紀の産業革命以降です。人間のせいで温暖化を招いたのだから、食い止める責任も人間にあると思います。

公害調停や裁判は「今、こんな被害を受けていて、何とかしてほしい」と思ったときに、市民の側からアクションを起こして、解決への道筋を切り開ける制度です。

今回、高裁での棄却を受けて、上告をしました。最高裁では、法律解釈で、二酸化炭素の排出が公害にあたるかどうかを主張するとともに、被害の実態をより丁寧に伝えていきたいです。

(弁護士ドットコムニュース)

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