子どもを自宅に放置したとして、保護者が逮捕される事件が8月に入って相次いでいる。
札幌テレビによると、札幌市の母親が、未就学の子ども2人を自宅に置き去りにしたとして逮捕された。母親は「子どもが寝ていたので少しの間なら大丈夫だと思って外出した」と容疑を認めているという。
また、NHKなどによると、兵庫県でも未就学の子どもを4日間自宅に放置したとして母親が逮捕された。この母親は「知人に会いにいくのと観光で東京に遊びに行っていた」と供述しているという。
子どもたちは保護され、ケガはなかったが、母親たちの逮捕容疑はいずれも保護責任者遺棄罪だ。
2人は放置した時間に大きな違いはあるが、一時的にその場を離れただけでも、この罪は成立するのだろうか。刑事事件にくわしい澤井康生弁護士に聞いた。
●保護責任者の「身分」があって初めて成立する
──どういう場合にこの罪が成立するのか?
保護責任者遺棄罪は、老人や子ども、身体障害者など扶助を必要とする者を危険な場所に移動させたり、生存に必要な保護をしないことによって成立します(刑法218条/3カ月以上5年以下の拘禁刑)。
主体となるのは、法律上、老人や子どもなどを保護すべき責任のある者であり、保護責任者の「身分」を有するものです。
つまり、保護責任者の身分があって初めて成立する犯罪なので、いわゆる「真正身分犯」に分類されています。
今回のような事件の場合、母親は親権者として子どもに対する監護義務を負っているため、保護責任者に該当し、罪が成立します。
●危険が生じなかった場合でも、理論上は成立する
──一時的にその場を離れただけでも成立するのか?
保護責任者遺棄罪は、遺棄された者の生命・身体に対する『抽象的危険』の発生が認められれば成立するとされています(判例・通説)。
遺棄された者の重大な法益の保護を徹底する趣旨からとされています。
したがって、一時的にその場を離れただけであり、実際には遺棄された者に危険が生じなかった場合でも、理論上は成立します。
ただし、実務では置き去りにした時間や場所、原因、遺棄された者の身体への影響、悪質性、常習性などを考慮して、刑事事件として立件するかどうかを判断することになると思います。
●子どもが死亡した事件で「懲役10年」となったことも
──遺棄によってケガしたり、死亡した場合、罪はどうなるのか?
保護責任者遺棄罪を犯し、遺棄行為から死傷の結果が発生した場合には遺棄致死傷(刑法219条)が成立し、傷害(15年以下の拘禁刑または50万円の以下罰金)と比較して重い刑により処断するものとされています。
──有罪になるとどれくらいの刑罰となるのか?
最近の裁判例では、実父母がスロットに行くために子どもら4人を部屋に置き去りにした事件について(子どもらには実害なし)懲役2年執行猶予4年とされたものがあります(神戸地裁令和2年4月17日判決)。
また、母親が2歳の子どもを8日間自宅に置き去りにして死亡させた事件について、懲役10年としたものもあります(仙台地裁令和2年3月17日判決)。