9493.jpg
話題の映画『そして父になる』が描いた「赤ちゃん取り違え」 現実世界で起きたら?
2013年09月30日 19時00分

6年間育ててきた息子は、他人の子どもでした――。出産した病院で子どもを取り違えられたことが原因で、そんな事態に直面することになった2組の親子の葛藤を描く是枝裕和監督の『そして父になる』。カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した話題作が9月28日から、全国の映画館で上映されている。

この映画のような「赤ちゃんの取り違え事件」は、いまでこそほとんどないと考えられるが、高度成長期の日本の病院では、ときどき起きていたようだ。なかには裁判に発展したケースもあるという。現実の世界では、どんな判決があり、どのような対応がなされてきたのだろうか。家族問題にくわしい福谷朋子弁護士に聞いた。

●過去の裁判では主に「病院側の責任」が争点となった

赤ちゃん取り違え事件における過去の裁判は、主に「病院側の責任」が争点となったものだったようだ。福谷弁護士はこう切り出した。

「映画のように、病院側のミスで赤ちゃんの取り違えが起きてしまった場合には、親子とも病院に対して損害賠償の請求ができます。

わが子を育てる権利、実親に育ててもらう権利を侵害され、さらに、取り違えが判明した時点で、それまで作り上げてきた関係を根底から覆されることになる親子の精神的苦痛は、金銭に換算できないほど大きいものと言えます」

●取り違えから数十年経過した後に損害賠償請求が認められたケースも

確かに取り違えは、親だけでなく子ども自身にも、取り返しの付かないほど大きな影響を与えることになるだろう。裁判で病院側の責任が認められたケースはあったのだろうか。

「過去には『母親が取り違えに気づくべきであった』とする病院側の主張を退け、慰謝料などを支払うよう命じた判決があります。

また出生後、数十年経過した後に取り違えが判明した子ども自身が、病院に損害賠償を請求した裁判で、病院側の時効主張が退けられ、請求が認められた判決もありました」

数十年とは……それを知った時の本人や関係者の衝撃は、計り知れないものがあるだろう。

●過去には子どもを「交換」したケースが多く存在したが……

こうした親子たちのその後は、どうなるのだろうか。福谷弁護士はこう説明する。

「昭和30年代~40年代にかけて起きた取り違え事件では、取り違えが判明した時点で子を『交換する』ケースが多かったようです」

それでは例えば、取り違えが証明され、戸籍を変更する場合はどうすればいいのだろうか。

「戸籍を変更する際には、単に役所に届け出るだけでは済まず、親子関係が存在しないことを家庭裁判所において確認してもらう『親子関係不存在確認』などの法的手続きが必要となるでしょう」

ただし……、たとえ損害賠償請求が認められ、戸籍の訂正ができたとしても、本人たちが納得できるかどうかは別問題だ。福谷弁護士も「仮に取り違えが法的に『解決』されたとしても、失われた時間を取り戻すことはできず、親子とも非常に苦しい思いをすることが多いようです」と話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

6年間育ててきた息子は、他人の子どもでした――。出産した病院で子どもを取り違えられたことが原因で、そんな事態に直面することになった2組の親子の葛藤を描く是枝裕和監督の『そして父になる』。カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した話題作が9月28日から、全国の映画館で上映されている。

この映画のような「赤ちゃんの取り違え事件」は、いまでこそほとんどないと考えられるが、高度成長期の日本の病院では、ときどき起きていたようだ。なかには裁判に発展したケースもあるという。現実の世界では、どんな判決があり、どのような対応がなされてきたのだろうか。家族問題にくわしい福谷朋子弁護士に聞いた。

●過去の裁判では主に「病院側の責任」が争点となった

赤ちゃん取り違え事件における過去の裁判は、主に「病院側の責任」が争点となったものだったようだ。福谷弁護士はこう切り出した。

「映画のように、病院側のミスで赤ちゃんの取り違えが起きてしまった場合には、親子とも病院に対して損害賠償の請求ができます。

わが子を育てる権利、実親に育ててもらう権利を侵害され、さらに、取り違えが判明した時点で、それまで作り上げてきた関係を根底から覆されることになる親子の精神的苦痛は、金銭に換算できないほど大きいものと言えます」

●取り違えから数十年経過した後に損害賠償請求が認められたケースも

確かに取り違えは、親だけでなく子ども自身にも、取り返しの付かないほど大きな影響を与えることになるだろう。裁判で病院側の責任が認められたケースはあったのだろうか。

「過去には『母親が取り違えに気づくべきであった』とする病院側の主張を退け、慰謝料などを支払うよう命じた判決があります。

また出生後、数十年経過した後に取り違えが判明した子ども自身が、病院に損害賠償を請求した裁判で、病院側の時効主張が退けられ、請求が認められた判決もありました」

数十年とは……それを知った時の本人や関係者の衝撃は、計り知れないものがあるだろう。

●過去には子どもを「交換」したケースが多く存在したが……

こうした親子たちのその後は、どうなるのだろうか。福谷弁護士はこう説明する。

「昭和30年代~40年代にかけて起きた取り違え事件では、取り違えが判明した時点で子を『交換する』ケースが多かったようです」

それでは例えば、取り違えが証明され、戸籍を変更する場合はどうすればいいのだろうか。

「戸籍を変更する際には、単に役所に届け出るだけでは済まず、親子関係が存在しないことを家庭裁判所において確認してもらう『親子関係不存在確認』などの法的手続きが必要となるでしょう」

ただし……、たとえ損害賠償請求が認められ、戸籍の訂正ができたとしても、本人たちが納得できるかどうかは別問題だ。福谷弁護士も「仮に取り違えが法的に『解決』されたとしても、失われた時間を取り戻すことはできず、親子とも非常に苦しい思いをすることが多いようです」と話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る