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ネット掲示板やブログで「ブラック企業」と批判することは名誉毀損になるのか

近年、長引く不況の下で「ブラック企業」という言葉が流行している。ブラック企業とは、従業員に対して過剰なノルマを要求したり、低賃金で休みなく長時間労働をさせたりと、いわゆる「ひどい働かせ方」をさせている企業のことだ。

インターネット総合掲示板サイト「2ちゃんねる」には、「ブラック企業ランキング」というスレッドが存在し、その企業の従業員や退職者と思われる人による書き込みが頻繁に行われている。2012年11月には『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(今野晴貴著)という本が出版され、話題を呼んでいる。

いまや日常的に使われるようになった「ブラック企業」という言葉だが、ネット掲示板やブログ、SNSなどで特定の企業のことを「ブラック企業」と表現し、批判的な書き込みをすることは名誉毀損となるのだろうか。場合によっては、企業から損害賠償を請求される恐れがあるのか。大阪過労死問題連絡会の事務局長をつとめ、ブラック企業の問題にも詳しい岩城穣弁護士に聞いた。

●ただ「ブラック企業」と書き込んだだけでは「名誉毀損」にならない

「『ブラック企業』という言葉は、『就職すべきでない企業』という文脈で使われています。その中身として、(1)法律違反の働かせ方や営業を平気で行わせる(2)極端なノルマを課したり、著しい長時間労働や休日労働をさせる(3)パワハラや暴力が日常化している(4)社員を大量に雇い、使いつぶして退職に追い込む、などの意味が込められています」

岩城弁護士は、このように「ブラック企業」という言葉の意味を説明する。ただ、ある企業のことを「ブラック企業」と名指ししただけでは「名誉毀損」にあたらない可能性が大きいという。なぜなら、「ブラック企業」と言っただけでは、「具体的な法令違反や違法行為があったことを、直接的に示しているわけではない」からだ。

「『名誉毀損』とは、『公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損』する行為(刑法230条1項)のことですが、『ブラック企業』であると表現するだけで『事実を摘示』したといえるかは疑問です。

また、『事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した』(刑法231条)として、『侮辱』に当たると主張される可能性もありますが、かなり広い意味で使われているので、これだけで『侮辱』といえるかも疑問です」

つまり、「ブラック企業」とネットの掲示板に書き込むだけでは、名誉毀損や侮辱として損害賠償の対象となる可能性は小さいというわけだ。

●ブラック企業の「違法行為」を暴露しても「名誉毀損」にならないワケ

「むしろ、この言葉と一緒に述べられると思われる『この会社ではサービス残業が蔓延している』、『社長が日常的にパワハラを行っている』、『消費者を騙して悪徳商法をしている』といった具体的事実のほうが、名誉毀損との関係では重要といえます」

このように指摘したうえで、岩城弁護士は、企業の違法行為を具体的に書き込んだ場合に名誉毀損となるかについて、次のように説明する。

「この点、名誉毀損行為がなされても、(1)摘示した事実が、公共の利害に関する事実であり、(2)摘示の目的が専ら公益を図ることにあり、(3)それが真実であった場合には、違法性がないとされています(刑法230条の2第1項)。

そこで、労働基準法違反の働かせ方や法令違反の営業、パワハラや暴力が行われていることは、(1)「公共の利害」に関する事実といえるので、(2)まじめな意図で、(3)それが真実であれば、何ら問題はないということになるでしょう」

すなわち、このような3つの条件を満たしていれば、ブラック企業の違法行為をネットで暴露しても名誉毀損とはいえない場合が多いということだ。

「世間では『ブラック企業大賞』の投票や授賞が行われたりしていますが、それが特に損害賠償請求や刑事告訴などに至っていないのは、そこでの批判が基本的に労働基準監督署や裁判所で認定された違法な事実を前提に行われているからだと考えられます」

「ブラック企業」という言葉をネットの掲示板やブログで書いても問題はないようだが、それとあわせてどのような事実を書くかは注意したほうがよさそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

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「足で園児を押さえるのは日常茶飯事」松戸市で“不適切保育”の公開通報 保育士加入の労組が批判 子育てしやすい街1位に波紋

東京管理職ユニオンは2月27日、千葉県松戸市内の社会福祉法人が運営する保育園で「子どもたちへの虐待等と疑われる事案(不適切保育)が行われている」として、市役所で市に対して“公開通報”した。

賃金不払いなど労働条件をめぐる交渉のため、2023年にユニオンに加入した保育士や調理師ら13人が労働組合を結成。2022〜2024年に起きた、暴言やネグレクト(無視、放置)などの不適切保育についても糾弾することを決めたという。

公開に踏み切った経緯についてユニオンは「市に繰り返し相談・通報したが、市も園もまともに取り合わず改善されないという状況だったため」としている。

松戸市は近年「やさシティ、まつど。」をスローガンに、幅広い子育て支援策を展開。日経新聞などの「子育てしやすい街ランキング2023」では総合1位となったとPRしていた。

労働組合が公開した動画の一部。左は園児をひっぱり、右は布団が飛んでいる光景(弁護士ドットコムニュース編集部加工)

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若者の5割超「車もたなくていい」、維持費に負担感…批判根強い「走る税金」の実態

「走る税金」とも言われる車について考えたいと思います。少し前の話ですが、日本自動車工業会(自工会)の2017年度の乗用車市場動向調査によると、車をもっていない10代ー20代の社会人などのうち、「あまり買いたくない」と「買いたくない」を足し合わせた割合が、前回調査(2015年度)より微減しているものの、引き続き5割を超えました。

レンタカーやカーシェアリングといった、保有しないうえでの車との関わりへの興味はあり、車をもつことでかかる維持管理費などの負担感がネガティブに働いているようです。

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オウム菊地直子元信者に「逆転無罪」判決・・・刑事弁護士が注目したポイントは?

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弁護士が選んだ2022年話題の法律ニュース「安倍元首相銃撃」がトップ 2位に「阿武町が4630万円誤給付」

弁護士ドットコムは会員の弁護士に対して、2022年に印象に残った法律ニュースについて、アンケートを実施した(回答数:500人)。参院選前の応援演説中に安倍元首相が銃撃され死亡した事件が最多で、63.2%(316票)を集めた。2位の「山口・阿武町が4630万円誤給付」(34.2%、171票)の約2倍の票数となった。

アンケートは12月10日から12日、登録弁護士を対象に実施。弁護士ドットコムニュース編集部が、PVやSNS拡散数、話題性などを考慮してセレクトした2022年のニュース20の中から、印象に残ったもの3つを選ぶ形で実施。500人の弁護士から回答が得られた。

結果は「安倍元首相、銃撃され死亡」が他を圧倒しての1位(63.2%)。弁護士からは「元総理大臣が暗殺されるという前代未聞の事態と警備体制の杜撰さに衝撃を受けた」「背景に旧統一教会の問題があることで、さらに衝撃だった」とコメントが寄せられた。

山口県阿武町が給付金4630万円を住民1人に誤って振り込んだ事件は、2位(34.2%)にランクインした。国税徴収法や地方税法などを駆使して返金につなげた町の手法について「最終的に債権回収に成功してすごい」など、町側の代理人の奮闘をたたえるコメントも並んだ。

3位(30.2%)には、「改正民法の施行、成人年齢が18歳に」となった。「18歳19歳の方の権利関係に大きな変化が生じたため」というコメントなどから、法律実務に携わる弁護士だからこそより印象強いニュースだったことが窺える。

4位の「旧統一教会をめぐる問題」に対しては、「昨今話題に上がることが少なくなっていた霊感商法被害について、再度政府も大きく関わる形で大々的な被害者救済の活動や法改正までが行われるところまで発展したから」など、事件を契機として霊感商法被害の解決に向けて事態が大きく動いたことへの関心がみられた。

5位にランクインした裁判手続きの盗聴問題に対しては、「酷いことを行ってる割に処罰が軽い。弁護士が行っていたらどうなっていたのだろうか。」と、対応を疑問視する声も寄せられた。

また7、8位には最高裁判決(乳腺外科医師わいせつ事件、JASRAC訴訟)がランクインした。JASRAC訴訟については「生徒は演奏しているのか、させられているのか、というキャッチーな論点だった」というコメントも寄せられた。

3位以下については、以下の通り。

3位 改正民法施行、成人年齢18歳に(151票、30.2%)
4位 旧統一教会をめぐりさまざまな問題が噴出(143票、28.6%)
5位 国による裁判手続き「盗聴」問題が発覚(112票、22.4%)
6位 乗客・乗員26人を乗せた知床観光船が沈没(102票、20.4%)
7位 乳腺外科医師わいせつ事件、最高裁が有罪判決破棄差戻し(63票、12.6%)
8位 JASRAC、音楽教室に一部敗訴 最高裁判決(48票、9.6%)
9位 東京五輪パラ組織委の高橋治之元理事を逮捕(46票、9.2%)
10位 安倍元首相の国葬が執り行われる(46票、9.2%)

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話題の映画『そして父になる』が描いた「赤ちゃん取り違え」 現実世界で起きたら?

6年間育ててきた息子は、他人の子どもでした――。出産した病院で子どもを取り違えられたことが原因で、そんな事態に直面することになった2組の親子の葛藤を描く是枝裕和監督の『そして父になる』。カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した話題作が9月28日から、全国の映画館で上映されている。

この映画のような「赤ちゃんの取り違え事件」は、いまでこそほとんどないと考えられるが、高度成長期の日本の病院では、ときどき起きていたようだ。なかには裁判に発展したケースもあるという。現実の世界では、どんな判決があり、どのような対応がなされてきたのだろうか。家族問題にくわしい福谷朋子弁護士に聞いた。

●過去の裁判では主に「病院側の責任」が争点となった

赤ちゃん取り違え事件における過去の裁判は、主に「病院側の責任」が争点となったものだったようだ。福谷弁護士はこう切り出した。

「映画のように、病院側のミスで赤ちゃんの取り違えが起きてしまった場合には、親子とも病院に対して損害賠償の請求ができます。

わが子を育てる権利、実親に育ててもらう権利を侵害され、さらに、取り違えが判明した時点で、それまで作り上げてきた関係を根底から覆されることになる親子の精神的苦痛は、金銭に換算できないほど大きいものと言えます」

●取り違えから数十年経過した後に損害賠償請求が認められたケースも

確かに取り違えは、親だけでなく子ども自身にも、取り返しの付かないほど大きな影響を与えることになるだろう。裁判で病院側の責任が認められたケースはあったのだろうか。

「過去には『母親が取り違えに気づくべきであった』とする病院側の主張を退け、慰謝料などを支払うよう命じた判決があります。

また出生後、数十年経過した後に取り違えが判明した子ども自身が、病院に損害賠償を請求した裁判で、病院側の時効主張が退けられ、請求が認められた判決もありました」

数十年とは……それを知った時の本人や関係者の衝撃は、計り知れないものがあるだろう。

●過去には子どもを「交換」したケースが多く存在したが……

こうした親子たちのその後は、どうなるのだろうか。福谷弁護士はこう説明する。

「昭和30年代~40年代にかけて起きた取り違え事件では、取り違えが判明した時点で子を『交換する』ケースが多かったようです」

それでは例えば、取り違えが証明され、戸籍を変更する場合はどうすればいいのだろうか。

「戸籍を変更する際には、単に役所に届け出るだけでは済まず、親子関係が存在しないことを家庭裁判所において確認してもらう『親子関係不存在確認』などの法的手続きが必要となるでしょう」

ただし……、たとえ損害賠償請求が認められ、戸籍の訂正ができたとしても、本人たちが納得できるかどうかは別問題だ。福谷弁護士も「仮に取り違えが法的に『解決』されたとしても、失われた時間を取り戻すことはできず、親子とも非常に苦しい思いをすることが多いようです」と話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

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母子家庭の「8割」元夫からの養育費なし・・・弁護士が教える「不払い」対策

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サルが写真家のカメラを奪って「自分撮り」 写真の「著作権」は誰のもの?

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池袋暴走事故、明日一審判決 裁判のポイントは? 「過失が認められれば重い処罰に」交通弁護士が解説

東京・池袋で2019年4月、乗用車が暴走し松永真菜さんと長女の莉子ちゃんが死亡した事故で、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷)の罪で起訴された男性(90)に対する判決が9月2日、東京地裁で言い渡される。

裁判で、検察側は、ブレーキとアクセルを踏み間違えるという初歩的で基本的な操作を誤るという過失があったとして、禁錮7年を求刑。一方、被告人側は初公判で「アクセルペダルを踏み続けたことはないと記憶しており、車に何らかの異常が生じて暴走した」と起訴内容を否認して以降、一貫して無罪を主張した。

事故発生から2年5カ月、2020年10月の初公判から11カ月。被告人が事故後に逮捕されなかった点を含め大きく報じられてきた事故に一つの判断が下されることになる。過失の有無をめぐり互いの主張が対立していたが、判決のポイントはどこになるのか。交通事故・事件にくわしい平岡将人弁護士に聞いた。

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「大阪都構想」 実現への課題とは?

橋下徹大阪市長が実現を目指している「大阪都構想」。現在の大阪市・堺市を解体して、東京23区のような「特別自治区」(大阪市域は5~7つ)に再編し、市の重要な機能を府に統合しようというものだ。府と市の二重行政の無駄を省き、産業基盤を整備して大阪の再生を図ることを目指している。

昨年8月には、国会で「大都市地域特別区設置法」が成立し、これによって、東京都以外の道府県でも総務大臣が認可をすれば「特別区」を新設できるようになった。ただし、いまの道府県名を「都」に変更できるというわけではないようだ。

このような中、今年4月、大阪市役所で、市を再編して新設する「特別区」の区割りなど制度設計を担当する「大都市局」が発足した。橋下市長が「大阪都」を実現するには、この後どのようなハードルをクリアする必要があるのだろうか。

●「実現への険しい道のりは、スタートラインに立ったばかり」

「大阪維新の会」政治塾で受講する今枝仁弁護士は次のように説明する。

「行政規模が大きすぎる大都市を、住民サービスを充実させやすい人口30万人規模の特別区に再編します。そうすることで、特別区は独自の税収財源を持ち、民主的基盤を持つ公選の区長が統治し、区議会がそれをチェックする体制になります」

では、クリアすべき課題はあるのだろうか。

「大都市の中では、行政・商業・工業地区や住宅地などの機能分化が進んでおり、特別区ごとによる住民層、企業数、行政サービス需要の違いや税収の格差は、かなり大きくなると予想されます。

ですから、良質な行政サービスを住民に効率的に広くもたらすためには、透明性が高く公平な財政調整制度の構築が重要な課題となるでしょう。

また、手続きの流れでは、道府県と特別区の事務分担・税源配分・財政調整のうち、政府が法制上の措置等を講じる必要があるものについては、総務大臣と協議しなければなりません。特別区の独創性や自立性の確保と、国家的な統一政策との調整も課題でしょう。

大阪維新の会が掲げる『自立する個人、自立する地域、自立する国家』の実現への険しい道のりは、スタートラインに立ったばかりです」

●「実態は、大阪市・堺市廃止分割構想で、府知事への権力集中だ」

一方、立命館大学の村上弘教授は「大阪『都』という名称は魅力的ですが、実際は、大阪府の名前はそのままです」と水をさす。

「廃止した大阪・堺両市(政令市)が持つ国との直接交渉権や、重要な権限・財源を府が吸収し、基礎的な機能だけを、新設する特別区に移すという『大阪市・堺市廃止分割構想』なのです。

デメリットは、政令市という『政策エンジン』の廃止によって、大阪全体の政策力が下がり、諸施設など府市の便利な『二重行政』も削減されることになります。橋下氏の狙いは、府知事への権力集中や、大阪市の所有地の獲得・売却にもあるようです」

このように反対意見を述べる村上教授によると、「二重行政の整理や成長戦略は、京都などでやっているように、府市の協議で進めればよい」という。また、橋下市長の前には、「(1)制度設計、(2)市議会での議決、(3)住民投票という3つのハードルがある」と話す。

「(1)では、区の数、規模、区の著しい税収格差を埋める財政調整などが難問ですが、どう設計しても公務員は何とか仕事をするでしょう。(2)は、維新の会に加えて公明の賛成が必要です。

(3)は、大阪は『都』にはならないこと、政令市が廃止されることのメリットとデメリットなどの正しい情報が住民に伝えられるか、そして住民が大阪市や堺市に愛着があるか、がポイントです。2011年の市長選挙で4割の票を得た反対派との論戦が、期待されます」

橋下市長が目標とする2015年4月まで2年を切ったが、最終的には住民たちのためになるように、賛成派と反対派によるしっかりとした議論の場が求められている。

【取材協力弁護士】

今枝 仁(いまえだ・じん)弁護士

今枝仁法律事務所 代表弁護士 元東京地方検察庁検察官検事

公益社団法人広島被害者支援センター監事,特定非営利活動法人ロースクール奨学金広島理事,広島法務局評価委員会元委員長

事務所名:今枝仁法律事務所

事務所URL:http://imajin.jp/

【取材協力】

村上 弘(むらかみ・ひろし)立命館大学法学部教授(行政学・地方自治論)

共編書に『よくわかる行政学』、『大阪都構想Q&Aと資料』など、論文に「民主党―2012年衆議院選挙と2大政党制」

(http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/12-56/murakami.pdf)など。

(弁護士ドットコムニュース)